
江戸時代の姿をそのまま残す「高山陣屋」
極寒を覚悟して訪れた冬の飛騨高山だが、それほどでもなかった。地元の人は「あまり風が吹かないからね」と言う。着込むと、路面を覆う雪さえ温かく感じられた。
国史跡の「高山陣屋」は、全国で唯一現存する郡代・代官所。1692(元禄5)年に江戸幕府の直轄領となり、明治維新まで176年にわたり25代の代官・郡代が派遣されてきた。
まさに江戸時代にタイムスリップしたような空間で、大広間や女中部屋など往時の生活がしのばれる。しかしお白州には、正座した囚人の下に敷かれた三角形の角材や、膝の上に積まれた抱石(だきいし)など拷問道具が展示され、恐ろしい時代だったこともうかがえる。
外国人観光客に人気があるといい、この日も欧米人の親子連れが訪れていたが、パパが部屋のかもいに頭をぶつけた。現代よりも背の低かった、江戸時代の日本人が執務した建物だから無理もない。

アーケードゲームやテレビゲームで遊べる飛騨高山レトロミュージアムの館内=いずれも岐阜県高山市で
高山陣屋から、赤い橋で有名な宮川の中橋を渡ると、程なく「飛騨高山レトロミュージアム」に着く。土蔵の外壁には「金鳥」「ボンカレー」「オロナミンC」など、昔懐かしいホーロー看板が所狭しと張られている。
入館すると、昭和の映画ポスターやソフビ人形などのおもちゃがあるわあるわ。「コレクション点数は、もはや数え切れません」と、代表の中野賢一さん(51)。大手家電量販店でパソコンや家電のリサイクルに従事していたこともあり、昭和の物を収集するようになったという。高山に縁ができ、土蔵を自分たちでリノベーションして2018年11月にオープンした。
昭和の世代には懐かしいが、若者や子どもにはかえって新鮮。10~30代の観光客が多いという。「高山は酒蔵など大人向けのスポットは多いが、子どもが遊べる場所があまりない」と感じていた中野さんの狙いは的中。19年の1年間で4万人だった入館者数は、昨年はコロナ禍で4カ月間閉めていたにもかかわらず、11月末までで5万6000人に上った。
インベーダーやドンキーコングなどのアーケードゲームや、スーパーマリオブラザーズなどファミリーコンピュータのゲームも、実際に遊ぶことができる。この40年でゲームの画質や遊び方は格段に進歩したが、自分が子どもの頃に親しんだこういうのが、一番面白かったなあ。そんなことを思いながら、あっという間に時が過ぎてしまった。 (築山栄太郎)
▼ガイド 岐阜県高山市へは、名古屋駅や名鉄岐阜駅から出ている高速バスが便利。高山陣屋は、高山濃飛バスセンター(JR高山駅東口)から徒歩約10分。入場料は大人440円、高校生以下無料。管理事務所(電)0577(32)0643。飛騨高山レトロミュージアムは、同センターから徒歩約15分。入館料は大人700円、子ども500円。(電)0577(70)8384
(中日新聞夕刊 2022年1月20日掲載)